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14062102徳沢愛子

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2014.06.21 エッセイ「商魂詩魂」投稿者:徳沢愛子

Kung Fu Piano: Cello Ascends - ThePianoGuys (Wonder of The World 1 of 7)
 
商魂詩魂                            
 
徳沢愛子
 
 
 亀井勝一郎氏は、人間を大きくするものに三つのものがあると言われた。人との邂逅、旅、書物である。周りの人々の助けを得て、先日中国への「旅」という祝福にあずかった。
 この旅で人間が大きくなったかは甚だ怪しいのだが、ともかく、北京の三大世界遺産はどれも声をのむほどの神技的建造物の数々であった。六千kmの堅固な万里の長城、皇帝の力をこれでもかと見せつける故宮博物院、明の十三陵は世界遺産のトップを飾るにふさわしい感動であったが、それ以上にショックな体験をしたのである。
 地下宮殿から地上へ出た途端、「三枚百元百元」。物売りの大攻撃であった。白いレースのテーブル掛けが三枚日本円で千三百円というので近づいた。鉄棚の中から両手を出し、白いレースを広げて叫ぶ男の姿は映画のシーンのようであった。私はカバンから茶封筒を出し、お金を取り出そうとした。男はサッと手を伸ばし、お金を抜いてホケットに入れた。と再び百元百元を連発して手を出すのである。「今、あげたでしょッ」。語気を荒くするとようやく黙る。広げていたレースを袋に入れてくれるのかと思って見ていると、足元に置いてあった目の粗い小さなレースを三枚素早く袋に入れたのだ。白昼炎天下のマジックショーであった。「さっき広げていた大きなレースを下さい」。私もついに叫んでいた。小さいのを二枚と大きいものを一枚ようやく手に入れることかできた。生き馬の目を抜くという言葉を思い出した。貧しい彼らはそれだけ生きることに必死なのだ。バスに戻って封筒をのぞくと二百元がなくなっていた。
 私はあの時、ふやけた顔をしていたにちがいない。人間を大きくするものが解遁、旅、書物である前に、私は宗教を第一にあげなければならないと感じる。巨大な人口を擁する中国はエネルギーに満ち満ちている。善も悪も飲みこんで渦巻いている。私に詩を書くという気魄が彼らの半分もあったなら、どんなにすごい作品ができ上がるだろうと、感心の上に感心したのであった。                               (日日草第64号より転載)
 
 

  • 私は中国に行ったことがありません。20年ほど前に洋書を扱っていた時期があり、勢いに乗って中国進出を考えましたが、実行しなくて正解だったと思います。中国は厚い幻想的なヴェールに覆われていますが、その現実の姿がここ数年の間に広く露呈してきており、多くの日本人が中国の現実を目にするようになったと思います。その意味では、大変貴重な経験をされたと思います。 -- 昼寝ネコ 2014-06-21 (土) 13:00:23
  • 徳沢愛子姉妹
    「巨大な人口を擁する中国はエネルギーに満ち満ちでいる。善も悪も飲み込んで渦巻いている」人間を超越した万軍の主の目で見られていることに敬服します。私だったら「さっきの百元多く取った分返しなさい」と詰め寄れるかどうか? -- 岸野みさを 2014-06-21 (土) 14:56:05

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