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14062803岸野みさを

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2014.06.28 詩・散文「惜別の辞」 投稿者:岸野 みさを
 
弟よ
君の産声 聞いたのは
15歳の 初夏だった
北アルプスの 山麓の
小さな農家の 庭先で。

夏が来て
秋が来て
冬が来て
春が来る

あどけない笑顔と 笑い声
その一挙手 一投足
見る者みんな 幸せに
ただ惹きつける 命の力。

めぐり巡りし 季節ごと 
若竹のよう しなやかに
凛々しく 潔い若者が
一族一つに 束ねあげ
その名を 世間に知らしめた。

あゝ
つかの間の栄光に 人の世が
待ち伏せたのは 絡繰り図
貶められた 若さゆえ
今度は汚名が 追いかける。

追いかけられて 倒されて
倒されたとて 起き上がり
戦い抜いた 弟よ。

追い打ち掛けた 病魔には
一族泣いて ただ帰神
57 なったばかりの 弟よ
誕生祝いの ケーキかと
ふっと 微笑み
口に入れ
それが最期の 無念の死。

弔いの朝 空碧く
眠っているのか その姿
扉の向こうに 消えた後
骨灰と化し 目の前に 

あゝ
主の声が 打ち響く
「見よ、人はみなわが手中」
肉は 土 霊は 天へと
離れ 逝き
生きるも 死するも
主の み手の中。

弟よ
生んとて 最期まで
苦き治療に 耐えに耐え
望みに縋り 生き抜いた
天晴だった その勇姿

愛しい妻が 取りすがり
「独りにしないで!」
「連れてって!」
泣き崩れての 叫び声 
聞こえましたか かすかにも

「思い通りに やらせてくれ」
固く守りし 夫婦の約束
ただ、それだけを 成し遂げて
思い通りに 生きたでしょう?
苦楽を共に 生きたでしょう?

君の産声 聞いた庭
今 芍薬が爛漫と 風に揺られて
咲いている。
 
 

  • 誰の人生にも最期は訪れるものですが、その時期は、あるときにはおおよそ予測でき、あるときには不意であり、実に様々です。でも、その喪失感と欠落感の大きさ、重さがあればあるほど、逝きし死者と残されし生者との距離を縮めるものなのだと、思い起こすことができました。 -- 昼寝ネコ 2014-06-28 (土) 15:40:00
  • 昼寝ネコさま
    渡部尚子姉妹の短歌にこのような句がありました。
    「出発の 定かならざる 切符手に 心は浮世を 右往左往す」
    「今は唯 永き休息を 願えども 天なる神は 許したまわず」
    「大往生 永遠の眠りを 願いつつ 眠れぬ夜半の 長きをかこつ」 -- 岸野みさを 2014-06-29 (日) 06:10:27
  • 弟様への深い思いが慈しみが深く胸に迫ってきました。57歳とは何と無念だったことでしょう。時に優しく時に主の声の力によって涙を拭う姉妹のお姿を思いました。詩も書かれるのですね。改めて多彩な才能の持ち主であられることがわかりました。 -- 加納敏江 2014-07-02 (水) 11:42:28
  • 加納敏江姉妹
    私の年齢になると何人も幕の向こう側へさっさと行ってしまいます。送り人になるのはつらいですね。姉妹の場合はご主人ですから、私にはまだ何も見えてこない経験をされたのだと思います。「主の声の力によって」姉妹も慰めと癒しを受けられたことでしょう。 -- 岸野みさを 2014-07-02 (水) 22:33:15

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