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2014.10.18 エッセイ「誰だって佳き人生だったと振り返りたい」投稿者:昼寝ネコ

誰だって佳き人生だったと振り返りたいものだ。

人生を終えて肩の荷を下ろす瞬間、
人は閉じようとする自分の人生の
どのシーンを思い出すのだろうか。

何かに夢中になり、他は何も視野に入らず
ただひたすら走り続けたとき。
そして、気がついたら
全てが跡形もなく消え失せてしまい
徒労感が空虚な心を占めたとき。

人間が幸福を得るのは、案外そんなに
難しいことではないのかもしれない。
誰でも人生のある時期には、
何かを得ようともがき、
何かを達成しようと、貴重な時間を浪費する。

その何かが、決して重要なことではない、
と気づいた瞬間が、実は人生の分岐点だった。

虚栄、私欲や物欲、名誉欲などは
どのようにすれば、ひとつずつ
削ぎ落とすことができるのだろうか。

見てみないふりをした後悔。
最善を尽くさなかったことへの罪悪感。

一番難しいことは、人を赦すことだろう。
しかし、もっと難しいのは、
自分が最も良く知っている、
自分という醜悪な存在を受け容れ
赦すことなのではないだろうか。

自分自身との和解が、新たな人生の
再構築の始まりであることを知る人は少ない。
人生は、知識の集合体で完成するのではなく
実は心と感性、いたわりと思いやり、寛容
などという、ほぼ死語になりつつある言葉に
生命を吹き込むことで完成することを
知る人は、さらにもっと少ない。

それは自分自身、そして他者を生かすことになり、
他者を生かすことは即ち、自分自身の終着点、
佳き人生の到達点であることを知る人は少ない。

午前中、弔問にお邪魔した。
出棺前の先輩は、静かに目を閉じ、物言わぬ姿で
穏やかに私を迎えてくれた。
しかし、その表情は私にとって饒舌だった。

帰り際に、遺品ですといってご遺族から渡されたのは
先輩が数十年使い続けた将棋盤と、比較的新しい
木製の駒だった。
サークルの駒はプラスチック製で使いにくい、
といった私のために、わざわざ購入してくれた駒だった。

すでに、言葉を発しなくなった先輩だったが
多くの感慨を、無言で私の心に残してくれた。

本当のお別れに、感謝の気持ちを込めて。
 
 
 

  • 昼寝ネコさま
    人の歴史の第2ステージの幕が下りると同時に第3ステージの開幕ベルが鳴ったのです。かねてから教えられてきた懐かしい人々との再会の世界なのでしょうか? -- パシリーヌ 2014-10-18 (土) 19:34:31
  • さあ、どういう心境だったのでしょうか。私にはあれこれ推測することしかできません。 -- 昼寝ネコ 2014-10-18 (土) 23:35:00

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