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2015.01.20 エッセイ「ハッピバースデー、おっかさん」投稿者:昼寝ネコ

もう8年になるだろうか。
検査入院したその夜に、脈拍が30まで下がり
緊急手術で最終的にはペースメーカーを入れた。
いわゆる急性心不全だったようだ。
入院していなければ、自宅でそのままだったろう。

退院した頃は、あと3年は生きたいっていっていた。
3年を過ぎると、その後は
今年いっぱいもたないような気がする、
なんていっていたのだが、とうとう8年生き永らえ
90歳になった。

私は誰に対しても、心にもないことはいえない。
母に向かって「いつまでも長生きしてよ」
なんていったことは一度もない。

「今は忙しいし、葬式を出すのも億劫だから
もうしばらくは頑張っててよ」

「年金が入らなくなると困るなあ。売上が
もう少しなんとかなったら連絡するから
その時はいつ死んでもいいよ」

「死ぬにもかなり体力を要するから、元気よく
安らかに最期を迎えられるよう、
何種類かサプリメントを送るからね」

ペースメーカーのバッテリーが切れても
そのまま死んだ方が楽だと思うから
救急車を呼ばず放っておいてほしいというので、

「そんなことしたら、
『母親のペースメーカーの電池代をケチり、
見殺しにした平成の親不孝息子』っていう記事が、
北海道新聞の一面に載るけど、それでもいいの?」

とまあ、真顔でこんなことをいうと、まだ爆笑する
元気があるようで安心している。

頼むから親より先に亡くなるような親不幸だけは
しないでちょうだいねっていわれると、

「そんなに俺より先に死にたかったら、
これから行って、絞め殺してやろうか?」

こんなアホな会話をしているのだが、
実際に母が逝った後、しばらくしてこのブログを
読んだら、なんとなく欠落感を感じるのだろうと
考えてもしょうのないことを考えている。

逆に、私ほどの親孝行はいないと思っている。

「お前がいつまでもちゃんと自立できないので、
心配で死ぬこともできない」

親というのは、何歳になっても子どものことが
気がかりなのだろう。

電話口で、三男夫婦の小さな娘二人がデュオで
ハッピバースデーを歌ってくれたといっていた。
若い頃から何かと苦労の多かった母で、
旅行もほとんど記憶になく、楽しいと思った
経験がないというものだから、

「ひ孫が電話口でハッピバースデーを歌ってくれる。
そんな晩年を迎えられたなんて、最終的には
幸せで佳き人生だったんじゃないの?」

受話器の向こうから、笑い声が聞こえた。
でも、正直にいうと葬式なんて本当に億劫だ。
葬式を出さずに、ミイラにして年金だけもらうよ
というと、また笑う。
こうして意思の疎通ができるだけでも、
とても有難いと思っている。

今日もまた、生存確認の電話を終えた。
母は今日もまだ無事に生きていた。

ハッピバースデー、おっかさん。

 
 

  • 昼寝ネコさま
    母上の90歳のお誕生日おめでとうございます。次の歌をお贈りします。

    あなたが生まれたときに
    うたわれた
    天使の歌声を聴こう。
    あなたの心のなかの歌に
    耳を傾けなさい。     アントニー・デ・メロ

    意思の疎通ができることは主なる神の最大の祝福だと思います。
    母上が詠まれた歌をまた分かち合って頂ければ嬉しく存じます。 -- パシリーヌ 2015-01-20 (火) 15:26:07
  • パシリーヌさん
    有難うございます。葬式は苦手ですので、このままズルズルと時が経過していってほしいと願っています。アントニー・デ・メロって、初めて聞きました。ロバート・デ・ニーロの親戚かなんかでしょうか。 -- 昼寝ネコ 2015-01-20 (火) 19:15:03

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