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15100101 岸野みさを

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2015.10.01 エッセイ「100円おばさんとイタリアのジプシーの子ども」投稿者:岸野みさを

 事務所に向かって歩いていると向こうから薄い水色のコートを着た60歳位の女性がこちらを見ながら来るのが眼に入った。そのまますれ違うはずが「あのう」と声をかけられたのだ。「はい」「サイフを失くしてしまったので100円貸してくれませんか?」不意をつかれたので何と返事をしてよいか分からなかったが、その女性の目を見た時に「物乞いだ」と直感した。「どこまで行くのですか?」「裏高尾です」私がバックからサイフを取り出そうとすると、すかさず「200円お願いします」あっけにとられた私は断ることをせず言われるままに200円を差し出したのだった。
 「ありがとうございます」と女性は涙ぐんで見せた。何事もなかったかのように歩きはじめた私は数メートル行ってふと振り返って見ると、何と今度はおじさんに声をかけているではないか。そのおじさんも小銭を渡しているようだった。

 娘にその話をすると「最近あの辺に出没する常習犯みたいよ。先日なんかおまわりさんに取り囲まれて道路で倒れたふりをしていたわよ」と言うのだ。

 主人に話してみると「薄い水色のコートを着た女性が先日、生協に買い物に走り込んでいったので何を急いでいるのだろうと思ったよ」と言うのだ。「お腹が空いていたので走って行ってパンでも買ったのだろうか?」

 その日の夕方、主人と車で戻る時に「あっ、いた!」再びその女性に出くわしたのだ。
こちらに向かって歩いてくる。収益があったのだろう。朝から夕方までこの街道で物乞いをして働いていたのだ。

 ところで物乞い行為は明治時代から禁止されているというが、昭和23年から施行されている軽犯罪法1条第22号に触れるそうだ。

 健全な社会のルールや健全な国家を形成するうえの妨げとなることで処罰を可能にした法律である。自らの労働によって生計を立てるのが社会の規範であるので、違反したものを拘留または科料という形で処罰することを定めている。拘留は一日以上30日未満期間刑事施設に身柄を拘留され科料は1,000円以上1万円未満のお金をペナルティとして払うことになる。また、それだけでは済まず軽犯罪法1条第26号により「前科あり」の記録が残るそうだ。
 同26号では街や公園で立ションは勿論のことタンやツバを吐くことも禁止されている。
 32号では他人の田畑等侵入の罪もある。並んでいる列に割り込みをすることも犯罪だ。

 軽犯罪法1条では騒音、虚偽申告、乞食、のぞきなど33の行為が罪として定められている。

 物乞いとは異なるスリだがイタリアではジプシーの子供たちがスリ集団だった。

大きなバッグ、カメラ、買い物袋を持って混雑しているモンテナポレオーネ通りを歩いて、疲れたので主人にそのバッグを持ってもらった。正におのぼりさんの恰好である、と思ったとたん前を歩いていた主人が小さな声で「NO!」と言った。ジプシーの女の子たちだ。顔に泥がついている。8歳から10歳くらいで数人だ。私はとっさに「NO!NO!NO~」と大声を出した。それでも彼女たちは新聞紙で自分の手を隠して主人のカメラを獲ろうとしていた。ポケットに入れてある笛を吹こうと思った時、年長に見える綺麗な女の子がサーッと動くと、皆何事も無かったかのように人混みの中に消えて行った。あっという間の出来事であっけにとられるやら、驚く
やら、二人共不機嫌になってスカラ広場に戻り、タクシーに乗ってホテルに帰った。午前中ガイドの木村さんがバスの中でジプシーの生態について説明している時「ほら、通りにジプシーがいますよ」と言うのでみると、男の人に何か言いながらついて行って交差点で男が「NO」と言っているようだった。木村さんは、「兎に角大声出して追い払わないと何でも獲られてしまう」と言った。その通りだった。カメラを叩いたからと言って、首にかけているんだし、落ちたりするわけはないし、獲れるはずがないのにそこが子供なのか。道行く大勢の人たちも「別に、いつものこと」のように通り過ぎて行き、足を止めるでもないのだ。不快感は収まらなかった。

 ミラノ第一日目はジプシーショックから始まった。夕食の時、私たちのテーブルには女性4人組が一緒になって外国旅行の話で盛り上がった。今日の事件の事は言わなかった。狙われたのが情けない気持ちがあったからだ。

 ミケランジェロ広場に到着した。フィレンツェの町の全貌が見える広場だ。ミケランジェロの「ダビデ像」の模型があった。青銅で、これがなんとも大仏のように大きい。アカデミア美術館で見た本物の大理石の「ダビデ像」も大きく6メートル近くあって圧巻だった。

 フィレンツェの町をゆっくり眺める間もなく例のジプシーの一団がいた。女の子、男の子、10人くらいか。母のような女性が側にいた。何人かはその女性に顔がそっくりだ。私が手に持っていたカメラをジロジロ見ている。その時、他の観光客グループの男性が「獲ったな!」と大声をあげた。群がっているジプシーの子供たちに向かって言った。イタリア人のおじさんも中に入って何か言っている。子供たちは服を持ち上げて、お腹を見せて何もない、とジェスチャーしている。するとなんと一人の男の子が「ゴミ!」と言い、他の子が「クズ!」と、日本語で言い返すではないか。自分たちに観光客が浴びせた日本語を覚えたのだろう。いくらなんでも「ゴミ」
「クズ」は悲しかった。店の店主が追い払うと一団は坂道を降りはじめた。そこへパトカーがきた。反対側からもパトカーがきた。出発時間になったので私たちもバスに乗り込んで、その後どうなったのか分からない。添乗員に質問するとパトカーは追い払うためにだけ来る、ということだった。

 昨今のニュースで4年半に渡る紛争に苦しむシリア国外難民408万人をEU(欧州)はどう受け入れるのか、と映像を映し出して討論していた。EU(欧州)にたどり着いた難民や移民の数は約47万8000人に上るとUNHCR(国連難民高等弁務官事務所)の報道官が9月22日に記者団に語った。そのことを考えると前述の二つの話は難民とは全く別問題なのだが、まだのどかなほうだ、と思えてしまう。

  • ときどき「ピンクおばさん」に遭遇します。帽子、洋服、スカート、靴下、靴、スーツケース、雨の日は傘までみごとにピンクです。物乞いはしませんが物見をするほどでもありません。子供のスリは捕まっても放免されるので取り締まれないのでしょうね。スリが多いのは失業率が多いからでしょうか?2020年のオリンピック候補地になっていましたが、経済危機、景気後退で都合が悪く候補地から外れたのは、皮肉にも日本にとっては都合が良い結果になりました。いろいろとバタバタしていますが・・。 -- ピンクパンサー 2015-10-04 (日) 07:26:13
  • ピンクパンサーさま
    「ピンクおばさん」に遭遇したことはありませんが、コメントありがとうございました。それぞれの国の問題は国民の問題ですから、まず、各自が関心を持つことだと思います。無関心から何かが生まれることは無いので各自が自分に何ができるのか、と考えることが次にやることかと思います。とりわけ紛争難民に対して私にすぐできることは、たとえいくらでも支援金を送ることでした。国連が機能して紛争の根本的な解決を図ることができるように働きかけることでした。世界の平和を主に祈り続けることでした。みんなでやれば大きな力となることでしょう。 -- 岸野みさを 2015-10-04 (日) 14:38:16
  • 200円あげて人助けができたと思えば良かったのに、振り返ったから・・(^_^;)。 -- コニー 2015-10-06 (火) 11:57:39
  • コニーさま
    振り返っちゃいけないんですね。ロトの妻みたいに…。 -- 岸野みさを 2015-10-06 (火) 12:18:42
  • この記事で熱心に乞うことを学べました。
    このおばさんのように乞い続けると施しをもらえるのですね。ま、嘘ついちゃった時点でこのおばさんはダメですが。(-_-)
    主に請い求めて頑張れば形は変わるかもしれないけどきっと願いは叶いますよね。
    -- ふわふわの 2015-10-06 (火) 12:24:41
  • ふわふわの様
    このおばさんは人の憐憫の気持ちに触れる才能があったと思います。物乞いと分りながら
    金銭を与えるのですから…。こういう場合皆様でしたらどうされますか? -- 岸野みさを 2015-10-06 (火) 14:52:32

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