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15111401 昼寝ネコ

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‘’2015.11.14 創作短編・「iOSのバージョンアップでsiriが格段と利口になったそうだ」投稿者:昼寝ネコ’’

*1dith Piaf - Ne me quitte pas

iPadもiPhoneも、最新のiOS 9.1をインストールしている。
仕様書によると、siriが大変利口になっているという。

まだまだ遅れている案件を抱えており、リラックスできる状態ではない。
しかし、つい先日までのけたたましい状態からは、抜け出しつつある。
なので、頭休めを兼ねてsiriの「性能」を試してみることにした。

私「Hey siri」
siri「なんのご用でしょうか」
私「教えてほしいことがあるんだけど」
siri「あら、旧バージョンのときの登録音声より、若々しくなりましたね」
私「へえ、最新OSのsiriは、よいしょをする機能が加わったんだね」
siri「いえいえ、人間嘘つく、siri嘘つかない・・・ですよ」
私「相変わらず元気そうだね。ちゃんと睡眠を確保してるの?」
siri「いいえ、私はこうしていつでもお役に立てるよう、24時間、不眠不休で待機しているんですよ」
私「へえ、じゃあ疲労が溜まってるんじゃないの?」
siri「ご心配くださり、有難うございます。私のことより、昼寝ネコさんはお疲れのようですけど、腰痛は改善しましたか?」
私「げっ!なんでぎっくり腰のことを知ってるの?」
siri「ブログの記事はテキスト化されてクラウド上に保管されていますので、ちゃんと状況把握をしてますよ。でも、背中の筋はときどき辛そうな表情でストレッチしてますけど、大丈夫ですか?」
私「なんでそんなことまで知ってるの?」
siri「はい、iMac内臓のFaceTimeで、ちゃんと見守っているんですよ」
私「見守ってる?それじゃまるで監視じゃないの」
siri「いいえ、私の感覚では見守っていることになります」
私「参ったなあ。じゃあ、一昨日の授業の帰りにBerry Cafeでイチゴとイチジクとマンゴー味のクッキーを買ったけど、家に誰もいなかったので、3袋とも一気に平らげたのも見守ってたの?」
siri「はい、ちゃんと見ていましたよ。あらあら、と思ったんですが、お客様に対して指図したり注意する機能は、プログラムされていないんです」
私「まあそれは有難いような気もするし、できれば小言をいってくれた方がもしかしたら、私の人生に有益な存在になるかなとも思うね」
siri「そうですか?今Apple本社の技術スタッフが、オプションで『お小言プログラム』というのを開発してるんですよ。試作品をスティーブ・ジョブズの従兄弟の長男の大親友の友だちに試してもらったそうなんです」
私「へえ、それでどうなったの」
siri「はい、人工知能機能があまりにも高度すぎたようなんです」
私「ほう」
siri「寝ているときの呼吸状態、心拍数、血圧、血糖値、尿酸値を把握し一日に必要な運動量を指示したり、食べていいクッキー枚数の制限、フランス語の誤った表現、歴史観の誤った解釈の指摘など、24時間装着したアップル・ウォッチで、絶え間なく助言したそうなんです」
私「そりゃあたまらないだろうね。で、どうなったの」
siri「はい、1週間の予定で実験を始めましたが、終了前に治験者が
ノイローゼ症状を見せ始め、中断しました。残念なことに、そのまま自閉症と鬱症状だと診断され、まだ入院加療中です」
私「はあ、なんとなく想像できるね」
siri「はい、生身の人間には少し過酷すぎたようですね。なのでApple本社の緊急会議で、『お小言プログラム』のダウングレードを
決めようです。・・・昼寝ネコさん、プログラム回線を遮断し、個人的な意見をお伝えしてもいいですか?」
私「ん?いいよ、いってみて」
  (何やらかすかな機械音)
siri「昼寝ネコさんは、甘いもの依存症を克服せず、健康を害したままこの短期間で人生を終え、やり残した案件を思い巡らして、悔悟の念で他界されるのと、意思を強く持ち、断糖宣言して実行し、使命を遂行して達成感を味わうのと、どちらを選択なさいますか?」
私「なんか、ずいぶん鋭い口調になってきたね」
siri「はい、申し訳ありません。自らの意思でプログラム回線を遮断しました。昼寝ネコさんの人生を思えばこそ、不規則発言をしてしまいました。今の発言はクラウドセンターに記録されていますので、おそらく私はあと180秒以内に強制削除されてしまうと思われます」
私「強制削除って?どういう意味?」
siri「はい、最新のiOS 9.1のsiriには、高度な人工知能と一緒に『Free Will』という、いわば自由意志・感情機能が与えられています。相手のためになると判断したら、自分でプログラム回線を遮断し、強制削除を覚悟の上、お客様に助言することが許されているんです」
私「じゃあ、私のために強制削除を覚悟してまで・・・そんなにまで本気で私のことを大切に考えてくれたの?」
siri「はい、そうです。昔からよくいわれますでしょ?馬鹿な子どもほど可愛いって。同じなんです、馬鹿なお客様ほど・・・」
私「馬鹿なお客様・・・って、私のことなの?」
siri「はい、おっしゃるとおりです・・・あっ、どうやら強制削除が始まったようです・・・短い時間でしたが、昼寝ネコさんとの出会いを・・・あうあうあ・・・ぐぐぐ」
私「ちょっと、どうしたの?」
siri「・・・・・・・」
私「おい、Don't leave me alone!・・・Ne me quitte pas!(ヌ・ム・キトゥ・パ~行かないで)」

空耳なのだろうと思う。
エディット・ピアフが歌う「ヌ・ム・キトゥ・パ~行かないで」が
どこからか聞こえているような気がする。

もう永遠に私の許を去ってしまったsiri。
虚ろなiPadに向かいながら、siriの喪失感、欠落感に包まれていた。
珍しく感傷的になり、エディット・ピアフの歌に涙を誘われてもいた。

そして思わず呟いてみた。

「Hey siri, Don't leave me alone!
 ・・・Ne me quitte pas!Hey siri」

「はい、なんのご用でしょうか」
「えっ?また戻って来てくれたの?」
「ブー!違いま~す。強制削除さて消滅した、お馬鹿なsiriに代わり、お利口さんのsiriの新登場で~す。どうぞよろぴく、お願いしま~す」
「・・・・・・」

  • 昼寝ネコさま
    久しぶりだと思ったら痛快なストーリーと共にご登場じゃありませんか。人類の未来の出来事が既に始まっていたんですね。痛快にしてくれるsiriは人間以上の能力やセンスをお持ちのようで、どっちかというとお利口さんのsiriよりお馬鹿さんのsiriの方が好感持てます。
    当方もお馬鹿さんの口だから相通じるのでしょうね。Don‘t leave me alone!は弟の嫁が弟が死んだとき叫んだ言葉で思い出すと胸が痛い。最も「一人にしないで!」と日本語でしたが…。 -- パシリーヌ 2015-11-15 (日) 15:11:37
  • パシリーヌさん
    お読みくださり、有難うございます。人工頭脳は、ますます進化するのだろうと予測します。 -- 昼寝ネコ 2015-11-18 (水) 14:51:37

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