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2016.04.08 エッセイ「ちょっと悲しい小話」 投稿者:岸野みさを

 春の日、桜が咲き誇っている陵南公園で孫たちとお弁当を広げていた。そこへ知り合いの若いカップルが通りかかった。彼らもお花見にきたのである。「おだんごでも如何?」と言ったが「ありがとう」と言って、食べずに、ニコニコして立ち去った。幸せそうな後ろ姿だった。年賀状はいつもあちこちに旅行に行ったときの写真集である。何年かが過ぎ去ると二人は離婚してしまった。お花見に行く度に二人の姿がフッと現れるような気がしてしまう。
 
 私は娘が小学校一年になってから、娘が帰ってくるまでの間仕事に付いた。ある日、用事があって早く帰っていた。ピンポーン。まだ下校時間ではないのに、誰だろう?と団地のドアーの鍵穴からみると娘が寒そうにして佇んでいる。「どうしたの?」「頭が痛くて、早引けしてきた」偶々その時私はいたのだが、いなかったらどうなっていたのかと胸が痛んだ。鍵は持たせてなかったのだ。
 
 幼い子供二人を育てている真っ最中のママが母親の介護の為に帰郷するのだという。寝たきりになってしまった母親は「あなたを生んで育てたのだから、わたしの面倒を見るのは当然だ」と言ったそうである。………。
 
 実は4年間の長きにわたって娘の結婚に反対していた。「自分の結婚じゃないのだよ」という夫の言葉なんか馬耳東風だった。何でもなければ好青年なのだが、娘の結婚相手となると、全てが気に食わなくなくなる。今思えば、かなりみっともない妨害工作をしたが、逆に火に油となってしまった。そんなことに疲れ果てたある時、夫と陵南公園の散る桜を見ながら散歩していた。川辺に何本もの満開の桜の木が咲き誇り、風に揺れては散って逝く。足を止めてボーッと見つめていると、突然「娘の結婚を祝ってあげなさい」という声が心の中に聞こえてきた。ハッとした。そうだった。親が決めてはいけないのだ。金は出しても口を出してはいけないのだ。それからというもの手のひらを返したように協力的になった。季節は移り変わり、あれからなんと12年が過ぎた。中一の長男を含めて2男2女に恵まれた。娘は旦那の愚痴を言っても、最後には「この子たちに遭えたのだから」と言うのが落ちとなる。ヤレヤレ。
 
 「こんな話があるのよ」と私は娘に言った。「ある処に、子供の面倒をあまり見ないママと、子ども好きの隣の叔母さんがいました。『ただ今』学校から帰るとその子はカバンを玄関に放り投げて、叔母さんの処へ行きます。学校の話をしたり、いっしょに本を読んだり、叔母さんの手作りおやつを食べたりしました。年頃になったとき、その子は結婚の相談をママではなく隣のおばさんにしたそうよ」子どもの面倒は後回しにして仕事だ、PTAだ、教会の責任だ、政治活動だ、と騒いでいる娘に親の責任の大切さを分からせようとしている私だったが娘は一言「そういう叔母さんが隣にいてよかったわね」と言うのだ。www…。
 
 若い頃、営業で廻っていると八重桜で有名な並木道に出た。なんと車イスや補助車でよぼよぼの老人たちが一団となって、桜の木の下で桜を仰ぎ見ている。何人かの白衣の男女が付き添っている。近くの老人ホームの人々だろうか?空は紺碧、穏やかな日和だ。この中の何人かは最後のお花見となるのだろうか?
 
 若い頃、営業でとある病院の中で仕事をしたときのこと。エレベーターを降りると真っ白い部屋に出た。ベッドも壁も真っ白で異様な静寂が漂っている。人のいる気配がない。アッ!ここは死の床だったのだ。ベッドに寝かされている人々の顔を見ることもなく、慌ててエレベーターに乗り込んだ私だった。
 
 社交的な娘は中国からきている二人の青年と教会で談笑していた。娘は普通のニュースの話で「PM2.5が日本列島にきているんですよね」と言った。すると一人の青年が「お金払えって言ってないでしょ?」娘はとっさに意味が解らずポカンとしてしまったそうだ。PM2.5で汚染されて尚、こちらがその代金を払う?そのうちその二人連れは教会に来なくなった。
 
 ある時同僚と二人で女性客の処に呼ばれて行った。あっ、仕事の名刺がない!仕方がないので、持ち合わせていた教会の広報の名刺を、教会名だけを丁寧に説明して渡した。保険の契約は成立した。喜んで帰社するとその人から電話が入っていた。キャンセルである。その理由が、気持ち悪い宗教団体みたいだ、と言ったそうだ。私に直接言ってよね。気持ちが悪いかどうか話を聞いてからにしてよね。後の祭りだった。ビジネスに宗教と政治の話は禁物だった。
 
 二つの某国から来ている二人の男性は母国のことを「自由がない」と言い、「日本は自由と綺麗な空気と水がある」と言った。一番大事なものが母国にはないので母国には帰らない、という。
 
 妻が中国人で夫が日本人のカップルの娘は幼稚園で「ママ、日本の名前で呼んでね、ママは中国人でもわたしは日本人よ」と言うそうだ。
 
 ある有名な教授の話で「最近は女性らしさ、男性らしさ、というと、差別だ!と反発してくるグループがある。それは差別ではなく区別なんだけれど、と言っても聞く耳がないようだ」
 
 営業である街を廻っていた時、宣教師が二人自転車ですれ違った。暫くすると、さっきの宣教師が一人になってしまっていた。キョロキョロしている。はぐれてしまったのだろうか?
 
 八王子の駅前で「彼ならきっと話を聞いてくれるよ」と、宣教師はチラシをその男性に渡したのだった。その男性とは八王子ワードの監督だった。初めて八王子に到着した宣教師の初仕事だった。
 
 「父が大酒飲みだった。自分は酒を一滴も呑めません。タバコも吸いません」モルモンだと思った。どのタイミングで教会を紹介すればいいのだろうか?只、コンプライアンスで個人情報を自分の仕事以外に使うことは不可である。
 
 自分には罪がないので悔い改める必要はない、と言い張る求道者に宣教師は白い紙をクチャクチャに丸めて、そして広げて「主の目から見るとこの紙のしわも一つの罪なのです」
「しわも罪?」と、おちょくっているのか、自分の顔のしわを気にしている。この求道者は真面目じゃなかった。
 
 WASP(アングロサクソン・プロテスタントの白人の略)は長らくアメリカ社会の代名詞だった。つまりアメリカ初の国勢調査(1790年)では人口の8割を占め、更にその内の6割がイギリス系であった。現代はLGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシャル、トランスジェンダーつまり性的少数派の集合体)がアメリカ社会の代名詞だそうだ。存在が認められているということだと思う。なにしろ、2015年6月同性婚をアメリカの連邦最高裁判所が合法化した。「現状を尊重する」のだという。
 
 中一の孫が古今和歌集をコンキンワカシュウと読んだ。えっ?コンキン?じゃぁココン?違うってば、コキンワカシュウが正解です。
 
 高尾ワードの元宣教師だった男性が高尾ワードに立ち寄った。その後空軍パイロットになったという。これからISの空爆に行く、と言ったそうだ。それを聞いた会員たちは皆押し黙ってしまったそうだ。
 
 長い間関わっていた90歳代の老婦人が入院した。病名は知らされなかった。病院に訪問するとどこも変わった様子もなく、世間話や昔の話に弾んだ。帰り際に玄関まで見送ると言う。「歩かなくちゃ」と言う。それもそうだ。長い病院の幅広い廊下を二人で歩いていると、向こうから30代くらいの医師がこっちへ向かって来る。「主治医の先生よ」私が黙礼をする前に医師はチラと老婦人を見た。その一瞥に?何かを感じた。その次訪問したとき彼女は眠っていた。机の上にノートが出してあって訪問者の名前やメッセージを書くようになっていた。名前を書いてメッセージを残した。大勢の人たちが訪問している。その次に又、訪問した時も彼女は眠っていた。数か月位過ぎたころ急に死亡の連絡が入った。私が玄関まで見送られたのが最期となった。元気だった老婦人が入院してから次第に弱っていくなんて腑に落ちなかった。なんでいつも眠り続けているのか腑に落ちなかった。病名とか治療法を聞くべきだった。そういえば、自宅に訪問していた時、二階の部屋に住んでいた彼女は「私はここだけで一階には行ってはいけないのよ」と言ったことがあった。食事は?風呂は?と聞きたかったが黙っていた。そして今も、あの主治医の一瞥が脳裏から離れない。あれから10年以上も過ぎ去っているのに…。
 
 白馬の家で次男が朝、目を覚ますと姉が自分のパジャマを着ているのを見て「なんで、オレのパジャマ?」と怒った。が次に言った言葉が「似合うじゃん」となった。姉のパジャマは八王子の自宅のバッグの中で白馬村に持って行くのを忘れてしまったのだった。
 

  • すぐ分かる話とすぐには分からない話、結局二回読んでしまいました。それでも謎が幾つか残っています。この筆者は普通の人ではないことが改めて分かりました。 -- 沼野治郎 2016-04-09 (土) 21:46:39
  • 沼野治郎さま
    すみません。二度手間を取らせてしまいました。私にとってもミステリーなのです。答えが分からないこともある、とはヨブの物語から始まり、世に多く蔓延しているのは知っているのですが…。 -- 岸野みさを 2016-04-09 (土) 22:31:07
  • あの学識高い沼野兄弟が分からない文章って、どんだけ~。『このミステリーがすごい!』悲しい悲しい難解小話。とくに岸野家の赤裸々な事実に笑激。ムコ殿に向けられたアノ視線の訳がついに明らかになった。「サクラ咲く 白馬もほほ笑む 姉弟かな」 -- おっとと兄ちゃん 2016-04-10 (日) 09:31:42
  • おっとと兄ちゃん
    あの視線、なんてどの視線?「コノー」なんてのはありませんよ。孫娘の桜俳句です。
    「お花見はソメイヨシノに山桜」 -- 岸野みさを 2016-04-11 (月) 18:25:42

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