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2016.12.16 穀粒記者レポート・「クリスマスメッセージ2016―おばあちゃんの贈物」投稿者:岸野みさを

5歳のメリナは4歳に近づいたころから急に絵を描きだして、白い紙を見つけるとたちまち絵を描いていく。画用紙だけでなく、メモ帳や、ノート、新聞の広告の裏にもさっと描いて、しかも鉛筆ではなくボールペンを使うので、描き直しがない。
いつも人を描いている。それも足から描きはじめて次に胴体を描いて、手を描いて、手にはボールやおにぎりを持っている。最後に頭と顔を描く。

オルガおばあちゃんが最初に見た孫のメリナの絵はトマトの帽子を被っている子ども達がいて、道路は工事中で、ぶらぶら梯子にぶら下がっている人もいる絵だった。
おばあちゃんは「まあ!素晴らしい」と目を見張って、「この人は、何をしているの?」と聞いた。
メリナは「この人危ないよ、ここにつかまるところあるよ」と言い、
「この人はね、旗を持って寝ているの。旗のマークは描かなかったけど」と説明。
「これはね、ダイヤモンド、キラキラしているでしょう。でもゲームセンターで買った偽物なの」おばあちゃんは「まあ!でもきれいねえ」
メリナは「この人はね、バンザイしているの」「こっちのみんなは踊っているのね」とおばあちゃんが言うと「うん、これはね、おじいちゃんよ」「あらま、亡くなったおじいちゃんを描いてくれたのね、おじいちゃん天国で喜んでいるわね」

ページをめくるとメリナは「これはナルトなの、パクッ」
「これはラブ・マシーン」「?」おばあちゃんには意味が分からない。
「これはエレベーター」
「まあ!1階2階3階と描いてあるけど、1番上が1階でだんだん下がっていくのね」
「そう」
今度は次のページをめくったメリナが質問してきた。
「おばあちゃん、どこに王女様がいると思う?」
「さあて、え~と、この人?」とおばあちゃんが指さす。「ピンポーン」
王宮を2ページに渡って描いてある。兵隊とかピエロも、がやがや大勢いる。

次のページをめくると「ここは前に説明したでしょう」と言う。自転車競走を見事に描いてある。

「おばあちゃんこんにちは」
メリナは毎日隣のおばあちゃんの家を訪問する。
おばあちゃんは「こんにちは、待っていたよ。メリナ。今日はどんな絵を見せてくれるの?」
「これ」といっておばあちゃんのベッドの上に描いた絵を拡げる。
おばあちゃんはもう1年間もベッドの上で寝たり起きたりの生活をしている。
「どれどれ、わぁ~!素晴らしい」
「これ、ドアーを開けているところ」
「2人で開けているの?」
「うん、重いから」

「こっちは?」
「歩こうとしたら転んじゃったの」
「あらま、痛いねえ。」
「この人はバンザイしているの」
「メリナはバンザイが好きなのね」
「うん」
「そういえばお花見に行ったとき、カメラを向けるとバンザイしたポーズをとったわね」
「うん」

「これって…」
「この子に箱の中に入れられたパパとママなの」
「あら、困ったわね。出られるかしら?」
「だいじょうぶ。私がこうやって出してあげるの」と言いながら
さっと描いて2人を外に出す。
「ホラね」
「パチパチパチ」おばあちゃんは拍手。

「こっちは扇風機よ」
「あっ、人が飛ばされている!」

「まあ、お見事!この子の長靴スポッと脱げたその瞬間を描いてあるのね」
「うん」

次のページを開けてメリナは更に説明を続ける。
「ここは遊園地で、これは観覧車だよ」
「メリナ、乗ったの?」
「うん。パパとママと乗った。こっちはジャングルジムよ。メリナ2階まで登れるよ。
これは砂場で、この人は木を切っているの。これは太陽で、これはジェットコースター。
これはね、仲直りしようと思ったのに逃げちゃったの」
「あら、残念ねえ。手が描いてあって、逃げて行った道も描いてあるのね」

次のページを開けると、
「この人たち踊っているの」
「わっ、すごい、踊っている人たちの骨が見えるわ」とおばあちゃん。
メリナは続ける。
「これはさめ」
「鋭い牙ね。怖~い」とおばあちゃん。
メリナ「おもちゃを描いたんだよ」
「これはね、へび」
「怖~い」とおばあちゃん。
「おもちゃを描いたんだよ」とメリナ。

「おばあちゃんこんにちは」
メリナは毎日隣のおばあちゃんの家を訪問する。
おばあちゃんは「待っていたよ、メリナ。今日はどんな絵を見せてくれるの?」
メリナはおばあちゃんのベッドの上に絵を拡げる。

「これ、釘でドアーを開けているところなの」
「カギじゃないの?」
「ドロボーは鍵をもっていないので釘で開けるの」
「あらま、どろぼうだったの?」

「これはね、これから海水浴に行くの」
「まあ、だから股間のVがきつく描いてあるのね、あら、日焼けで顔が真っ黒!」
「これはね、ヘアピン」
「あっそう、最近流行のヘアピンの止め方××//なんだね」

次のページを開けると、1ページ全部使って
「うわあ!ワハハハハハ、6人全員が逆立ちして背伸びしているのね!」
おばあちゃんは大笑い。それを見てメリナもクックックッと笑う。

次のページを開けると
「この人どうして片方だけ足が長いの?」
「おばあちゃんメリナの絵を見て良く笑うから、もっと笑わせようと思って描いたの」
「まあぁ、嬉しいわぁ!ありがとう!メリナ!」
おばあちゃんはしっかりとメリナを抱きしめてくれた。

その年のクリスマスの朝は雪が降っていた。パパもママもおばあちゃんを心配して3人で玄関を開けた。
「おばあちゃん!赤ちゃんのイエスさまを描いたよ!ホラ、見て!」
おばあちゃんは眠っているように見えた。
「お母さん!」とメリナのママは叫んでベッドに駆け寄った。
メリナにはおばあちゃんは眠っているように見えた。
「おばあちゃん、起きて、起きて。赤ちゃんのイエスさまの絵よ。おばあちゃんが話してくれた赤ちゃんのイエスさまよ」
「お母さん、お母さん、お母~さ~ん!」
ママがおばあちゃんの体に取りすがって叫んでもおばあちゃんは目を開けることはなかった。
「メリナ!ママ!」
パパがしっかりとメリナと泣いているママを抱きしめた。

 成人したメリナは画家の道へと進んだ。

今年のクリスマスも雪が降っている。
窓の外の降りしきる雪を見ながら、メリナはおばあちゃんと過ごした楽しかった日々を回想する。自分が描いた絵を見て微笑むおばあちゃん。驚いたり、おどける顔。「まぁ、素晴らしい」と満面喜びで輝く顔。メリナはつぶやく。「そんなおばあちゃんを見て、私は自分の行くべき画家の道を見出しました。おばあちゃんと同じように人々が喜んでくれる絵を描こう。幸せを感じてくれる思いを絵に託そう。そして、人に愛と関心を示すというおばあちゃんから受け継いだ贈物を大切にします。おばあちゃんありがとう!メリークリスマス!!」


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