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2018.03.24 穀粒記者レポート・『「少年たちの群像(16)」』投稿者:岸野みさを

 2年間中学のPTA会長を務めたママはさぞ泣きの卒業式かと思いきや笑いの卒業式だったという。会長挨拶は無事に終わったものの来賓挨拶で高齢者が多く、起立するのによろけたり、「ご卒業おめでとうございます」の言葉を噛んだりして、生徒たちが笑いを堪えている姿を見て笑ってしまいそうになったという。決して高齢者を笑ったのではなく生徒たちの姿が笑えたと言うのだ。
 前日、ママに友達が「2年間ご苦労さまでした」と言ってケーキを持って来てくれた。「あなたならできるよ」と役員になることを勧めた人だったが1年目には大変な人がいて会議で攻撃され、予算もなかなか出してくれなかったそうだ。PTA役員は学校を中心にして地域で子ども達を育てるために必要不可欠であるが、なり手がないのである。ある時、男子生徒が会長に近づいてきて「役員になってくれてありがとうございます。お母さんが毎日色々な人に電話をしていても断られてばかりだったのです」と話しかけてきたそうだ。役員になり手がないPTAの苦境を子供にまで強いていたことを知り涙が出そうになったという。
 5月のPTA総会まで会長の責任は継続するのだが、その後も青少年対策協議会の責任は回避できないのだという。

 卒業式の日制服の第2ボタンをもらった、と大泣きの友だちがいた、と中1の孫娘が言った。「で、あんたは第2ボタンが欲しかった男子はいなかったの?」と聞くと「いない、だって私は真剣祐(マッケンユウ)がいいんだもん」と言うので「誰?」と聞くと「少女マンガのヒーローが抜け出て来たみたいな恰好いい俳優」と言ってスマホから出して見せてくれた。なるほど。千葉真一の息子でアメリカ生まれアメリカ育ちの19歳だった。

 小3の孫が爺と一緒に「戦場に架ける橋」のDVDを観た。字幕の漢字を爺が読むのである。デビット・リーン監督の作品で第2次世界大戦時タイとビルマの国境を流れるクワイ河に英軍捕虜と日本軍が橋を架ける史実に基づいた物語である。数々のアカデミー賞に輝いた。橋を架けるための技術者が数名捕虜の中にいたので、日本軍が失敗ばかりしているのを見て協力を申し出る英軍大佐。捕虜たちは日本軍と一緒に橋を完成させていくことに達成感を味わっていくのだが、捕虜収容所を脱出できた米海軍少佐がジャングルの案内役に使われて、架橋爆破作戦が行われていた。橋が完成した日、爆弾が仕掛けられていることを見破った英軍大佐は自国の工作員に狙撃され、米海軍少佐も爆撃されて、祝列車が通過中に橋は大音響と共に粉みじんになる。
 孫にどこがよかったかと聞くと、そこだと言った。「あんたが、そんな任務を負ったらどうする?」と聞いてみると「爆破しない」と言った。「でも、その橋を列車が通過できるようになると味方は不利になるんだよ」と言っても「橋は爆破しなくていいんだ」と言った。
捕虜たちが橋を造ることで敵味方なく人間の尊厳を見出したのに、それを打ち砕く戦争と破壊の愚かしさを対比させた名作である。

 中3の孫は読んだ本に影響されること大である。先日も「ヒトラーがユダヤ人500万人をガス室に送ったからと言って彼だけが悪いのだろうか?広島への原爆投下は死者約20万人、長崎で14万人に及び、(5年後までの統計)東京空襲は一晩で10万人を殺した」爺が「戦争と民族絶滅政策は違うんじゃないか?」と言うと「大義が違っても人の命を奪うことに於いては同じだ」と言う。ヒトラーの「わが闘争」を読んだのだという。

 同じ彼だが土曜の午後パパに「車で迎えに来て」と電話が来た。「えっ、仕事中だよ。どこにいるの?」と聞くと「青少年の集会で教会に来ている」「仕事だからダメだよ」と言うと「分かった」と電話が切れた。暫くすると知り合いがパパの職場に来た。これから教会へ子供を迎えに行くと言う。「すみません、じゃぁうちの子も一緒に連れてきてくれませんか?」と頼むと「いいわよ、通り道だから」ということになってパパは「だから、言ったでしょ?教会に行くと祝福があるって」と彼に電話したそうだ。

 同じ彼だが2月24日若者の人間力向上を目指す第30回産経志塾に出席した。「安倍首相 3選への展望」というテーマで産経新聞論説委員兼政治部編集委員、阿比留瑠比(アビル ルイ)氏が「諸外国にとって金になる日本人の贖罪意識」というテーマでジャーナリストの大高未貴(オオタカ ミキ)氏が講義した。「どうだった?」と聞くと「米朝開戦はある、と阿比留氏が言った」と言う。3月14日の産経新聞紙面に詳細が掲載されたが、孫が言うような表現は無かった。「熱心に講演を聴講する塾生ら」という写真に孫の姿があった。マスクをかけた2列目左から2人目でメモを取っていた。

 同じ彼だが「お爺ちゃんジャケット貸して」と借りに来た。「どうしたの?」と聞いてみると「教会に行くのにまだ高校の制服は着られないし、中学の制服は第2ボタンだけじゃなくて全部取られちゃったよ」と言った。「誰に?」と聞くと「後輩の野郎たち!アッハハハハハ」全員が大爆笑だった。

 5歳の男の子、八王子に雪が最初に降った日、小降りになったのでパパが「雪かきしようか?」と聞くと「やるやる!」と大張り切りで外に飛び出して行った。雪かきを初めてみるとなかなか大変だった。息子も子供用のスコップを使って同じようにやり始めて「パパいつもの公園まで雪かきして行こうよ」と言った。家から100mくらいはある場所だ。「できるの?」と聞くと「うん、パパがいるから」と言った。その一言でパパはやる気満々となった。20mくらい進むと日頃やり慣れない作業のため少し疲れて来た。近所の人たちも心配して「無理してやらなくてもいいんですよ」と言った。息子はと見るとスコップを片手にして、どんどん先に行ってしまう。「オーイ、ただ、歩いて行くんじゃなくて雪かきをしながら行くんだよ」と言うと、息子は立ち止まって少しはやるのだが、すぐまた歩いて行ってしまう。そして、戻ってきたかと思ったら「パパ何時?」と聞いた。いつも見ているテレビ番組の時間だと分かると、さっさと帰ってしまった。主が期待されていることはこういうことかと呟きながらパパは一人で100mの雪かきを終わった。そして、疲労と共にさわやかな気持ちを味わうことができたのだった。


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