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2019.09.02 研究論文「北斎の浮世絵・神奈川沖浪裏あれこれ」投稿者:保阪 三郎

 最近、お札(紙幣)が2025年から変わることを知った。1万円札は福沢諭吉から日本近代の父、日本資本主義の父渋沢栄一へ、五千円札が樋口一葉から女子教育の先駆者津田梅子へ、千円札は野口英世から北里柴三郎へとのことである。
 今の千円札の裏面は富士五湖の本栖湖畔の(岡田紅陽が撮影した場所へ1年前ハイキングした)富士山であるが次も富士山の図柄には変わりないが、北斎の浮世絵・神奈川沖浪裏が使用されるようだ。

 浮世絵に興味がある私は各地で開催される浮世絵展によく出かけた。北斎の冨嶽三十六景シリーズ中「凱風快晴」、「山下白雨」、「神奈川沖浪裏」は代表作品の3役と称されているもので、必ず出展される名作で、人気があり、親しみのある作品である。

 特に神奈川沖浪裏は70 代の作品でこの構図は一朝一夕に生まれたものではなく、北斎は波を繰り返し描いて研鑽を積んでの傑作であると言う。画道を邁進する北斎の意欲を読み取れる作品である。
 ダイナミックに飛抹散る波に翻弄される小舟の奥に覗く富士この構図自体北斎芸術の最大級、最高級と言える。さらに研究者が語る「風景画を浮世絵のジャンルとして確立させた社会碑的作品であり、世界的傑作の誉れも高い本作はその魅力が衰えることなく人の心を掴んではなさない(平成27年山梨県立博物館・冨嶽三十六景リーフレット)」このように国民的な評価と親しみやすさからこの度お札に採用された要因になったと思われる。(本当はこんな単純な理由ではないだろうが・・。)

 注意深く観察すると虚実の富士を見出すことが面白い。実の方は波間はるかに観える富士、もう一つは船を飲み込みそうな大波の直下に描かれた山形の波、これが「幻の富士」いわゆる北斎の放つデホルメ。以前に長野・小布施岩松院の天井画にも同じ富士を見出したことがある。
 過去にこの浮世絵は平成6年初冬(熱海のMOA美術館、平成13年春(千葉・上総博物館・房総浮世絵展)、平成15 年12 月(静岡県立美術館・ホノルル美術館展)さらには平成17 年秋(東京上野国立美術館・北斎展)で鑑賞して馴染み深いものとなった。絵葉書の額を居間に飾って長い間置いたので、私の視線は「神奈川沖浪裏」に強く射ることになった。
そんなことからクリスマスカードや特別な人へ年賀状として使ったことがよくあった。

 ごく最近足を運んだ浮世絵展を遡ってみる。その1・6月18日にMOA美術館へ「北斎漫画と冨嶽三十六景」へ行った。内容は平凡であった。
 その2・4月中句に東京六本木の北斎没170年に当たる「新北斎展」へ行った。
研究者永田生慈氏(1951-2011)が少年時代に北斎に興味を持って以来北斎研究に没頭しての集大成で、その数2000件中の展示450作品は過去最大級であった。
その3・3月24日には東京銀座高島屋での「浮世絵最強列伝一江戸の名品勢ぞろい」米国サンタフエのリー・E・ダークスコレクションで北斎の絵師人生を作風の変遷と画号を6期に分け紹介したもので、見やすく学び易かった。題名の如く傑作が相当数あった。
 ダークス氏が日本美術に関心をもったのは空軍士官として日本へ駐留した1958年から1961年のことで、2000年頃から感銘を受けた浮世絵版画を収集開始、その後大手新聞社の記者をへて新聞業界の経営に携わりながらわずかの30年の成果は異彩をはなっている。
その4・少し前になる平成27年(2015)北斎の生誕地墨田区へ墨田北斎美術館が開館して、約100年振りの再発見で「墨田川両岸景色図巻」北斎の帰還-すみだ北斎美術館のコレクションとする絵巻を鑑賞した。だが満足は得られなかった。余談であるが、12 月14 日忠臣蔵の討ち入りの日で、吉良邸まで徒歩10分であったので歴史的舞台となった場所へ足を運んだ。道を挟んで相撲部屋の時津風部屋があることを知った。

 以前にある高校を訪れた際に生徒の制作した巨大な貼り絵の[神奈川沖浪裏]に出会った思い出がある。
 掲示文には美術部員を中心に在校生、卒業生200名が参加して制作したこと、親指大のちり紙を地道に下絵に貼っていく作業を4,5ヶ月費やしたこと。豊な色彩に見せる技法を駆使して、約1平方メートルの色紙を約60色、400枚以上使用したこと等の説明があっつた。大きさは縦約6メートル、横9メートルの巨大なものであった。

 同じく制作し展示された巨大画にクロードモネーの「日傘の女」8メートル、6メートルも鑑賞した。
 なぜ、この2枚の画という理由にはモネーが北斎に影響を受けた点であるという。北斎の「神奈川沖浪裏」は1831年の作品、モネーの作品も1830年の作品という時代的の共通性を意識しての制作であることも知った。

 北斎の浮世絵をめぐる想い出等は尽きない。この先も感動と感激、想い出を作ってくれるにちがいない。

  • 「神奈川沖浪裏」のド迫力ある波の高さと砕け散る波頭の一つ一つの美しさには圧倒されます。ゴーという音まで聞こえてくるようです。海の藻屑と消えてもおかしくない点のような漁師たち。しかし、舟にへばりつくようにして、大波に負けまいとする人間の逞しい姿を捉えています。遥か彼方に超然として、そこにある日本一の富士山!後に国内外の画家たちに多大な影響を与えた大作の誉は永遠不滅です。師匠と仰ぐ方からタイミングよく
    「神奈川沖浪裏」絵ハガキの残暑見舞いを頂きました。その絵を見ながらこのコメントを書きました。保阪さまは研究熱心にどこまでもお出かけになられるので感服します。ご投稿ありがとうございました。 -- 岸野みさを 2019-09-05 (木) 22:38:41

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