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2023.04.08 自分史・家族史「趣味の読書とユダヤ系の作家(後編)」 投稿者:芥野 正己

 前回に述べたように、もっとも好きな読み物が、「本格ミステリ」と呼称される分野である。当初は気にしてなかったが、実はそのような作品を書く作家にはなぜかユダヤ系の作家が多かった。その作家・作品のなかで、ユダヤ系であることが重要な要素になっているものを、今回はいくつか紹介したい。

ジェイムズ・ヤッフェ

『ママは何でも知っている』
『ママのクリスマス』

 刑事として働いている息子が、解決困難な事件に遭遇する。彼は毎週末、別に住んでいる母親のところで夕食をともにする習慣があるのだが、その場で事件の謎の部分を語ると、その場で与えられた情報だけで、「ママ」が解いてしまう。その線に沿って捜査してみると事件は解決。息子は難事件をいくつも解決に導いた名刑事として、周囲に認められる
ようになってゆく。
このようなコンセプトで書かれた連作短編集が前者である。これは推理小説の歴史に残る「安楽椅子探偵」ものの名作として評価が定着している。謎解きの面白さと同じくらい、興味のある人にはユダヤ人の親子や嫁姑のやりとりが楽しいだろう。

 一作目はニューヨーク市警の刑事という身分だった息子は妻を早くに亡くし、刑事を辞して母とともにほかの土地に移り住んで私立探偵を開業する。その後に扱った事件が、長編としてシリーズ化されている。人種のるつぼ(宗教的にもさまざまな環境)のニューヨークから、ファンダメンタリスト(トランプ大統領を支持しているようなタイプの人たち)の勢力が強い土地へと大きく舞台が変わる。ユダヤ系住民に限らず、アメリカでのマイノリティの生き方が、重要なテーマになっているように感じる。

 その長編のいくつかの中から、『ママのクリスマス』を挙げたのは、このママの人となりを表すセリフを引用したかったから。物知りで新約聖書も読んでいる彼女だが、こうコメントしている。
「あたしには異教徒(キリスト教徒)の友達がたくさんいるのよ。その人たちの読むものに興味を持ってもおかしくないでしょう。それに本編が気に入ったら、続編も読んでみたいと思うのは人情だわ」
「ついでに言うと、そう悪くはない、本編には及ばないけど。でも続編だから仕方がないわね? たった一つ解せないのは、なぜ同じ話を四回もしなくちゃいけないのかってこと。本を厚くして、買った人を損した気にさせないためかしら?」   
 
ハリイ・ケメルマン
『金曜日ラビは寝坊した』
『ラビとの対話』

 ユダヤ教の聖職者「ラビ」が探偵を務める長編推理小説のシリーズ。『金曜日ラビは……』に始まって、『土曜日ラビは……』『日曜日』『月曜日』と続いてゆく。主人公のラビ、デイビット・スモールの教区やユダヤ系住民の関係あるところで殺人事件が起こり、ラビ自身やその信徒、あるいは信徒でなくても関係ある人が窮地に立たされる。その事
件をラビが解決して……というパターンで構成された作品群である。

 読み進めて行くうちに、推理小説的興味をユダヤ教やユダヤ系住民たちの生活の描写で彩ったものだったのが、次第に注力しているのが逆のように思えてくる。この作品が書かれた当時のアメリカの田舎町における、ユダヤ系住民の生活ぶりを活写した文化的資料の意味合いのほうが濃いような?

 『ラビとの対話』はシリーズ番外編で、殺人などは起こらず、キリスト教徒とユダヤ教徒のカップルが結婚するために、宗教をどうすればいいかという問題をラビに相談した問答が全編を占める。

バーナード・マラマッド(この訳書ではマラムード)
『奇跡のルーキー』

 前回紹介したマラマッドのデビュー作もちょっと紹介しておきたい。
 なぜか野球を扱ったエンターテイメント小説で世に出た。登場人物を今の時代に分かり
やすいように、勝手に仮名にしてあらすじを述べると、まだ10代でMLBの最高の打者(マイク・トラウト)を三球三振に打ち取れるポテンシャルを持った天才投手(佐々木朗希)は不運に見舞われ、投手生命を絶たれてしまう。雌伏の10数年のあと、彼は普通の選手なら引退が近い34歳で打者としてデビューし、チームをプレーオフに導く。しかしこの不世出の打者に忍び寄る破局の予兆が……
ユダヤ人はまったく関係なく、市井の人びとの哀歓でもなく、天才プレーヤーの物語である。しかしよくよく考えてみると、マラマッドはマラマッドなのだ。形は違っても、生きにくい世の中をつまずきながらも必死に生きて行こうとする人の物語なのだ。
本作はロバート・レッドフォードの主演により映画化されている。タイトルは『ナチュラル』。

 ここまでユダヤ系作家とその作品を紹介してきましたが、別の視点、キリスト教徒の書いたユダヤ人の物語(旧約聖書を題材)を、次回はひとつ紹介します。
それはドイツの文豪トーマス・マンの書いた『ヨセフとその兄弟』という作品です。
ドイツ人作家が、ナチスの支配する時代に、ユダヤ人の先祖の英雄の物語を書いています。

  • 修理屋(早川書房)を注文したのですがまだ、届いていません。ご紹介頂いた上記のどれも興味深いテーマです。作家たちは人間社会の諸問題に果敢に挑戦しているようですね。
    同じ話を4回はジョークですか?キリスト教徒とユダヤ教徒の結婚で宗教をどうするか?の問答に答えはあるのですか?それには本を購入して読まなくては! -- 岸野 みさを 2023-04-08 (土) 21:45:52

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