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2014.01.24 エッセイ「老母との深刻な会話〜その2」 投稿者:昼寝ネコ

Piazzolla · Amelita Baltar - Che Tango Che
 
老母との深刻な会話〜その2
 
 
 
昼寝ネコ
 
中学生の時に父親が急逝し、長女だった母は
まだ幼い何人もの弟や妹のために、学業を断念した。
独学で短歌を学び、チラシや手近の紙に
思い浮かんだ歌を記した。
それが、苦しさや辛さを注ぎ出すはけ口となった。
書きためた短歌は、相当膨大な量になるらしい。
最近は体力も衰え弱気になっているため、
励ますつもりで、それらの作品の推敲を兼ねて整理し、
残してくれるよう依頼している。

今日は少し時間に余裕があったので、電話で長話をした。

母:お前から電話があったら訊こうと思ってたんだけど。
私:何?
母:「たまずさ」って聞いたことあるかい?
私:「たまずさ」?いや、記憶にないね。何それ?
母:去年、亡くなったYさんは、短歌は作らなかったけど
  俳句の才能がある人でね、亡くなる直前、
  私に手紙をくれたんだよ。俳句が書かれてて、
  その中で使われてた言葉なんだよ。
私:(母の話を聞きながら、将棋をせずにgoogle検索をして)
  ああ、これかな?「たまずさ」は漢字で書くと
  玉梓または玉章だね。意味は、手紙とか消息とかだよ。
母:ああ、なるほど。Yさんは、かなり体調に自信をなくして
  これが最後の手紙になるかもしれないって、いってたもの。
  子どものいない独り暮らしの人だったけど、私に対しては
  心を開ける唯一の、かけがいのない人だって
  いってくれてたんだよ。
私:ふ〜ん(パソコンを見ながら)文例としては、泉鏡花が
  よくその言葉を使ってるみたいだね。古いのは万葉集にも
  出典があるよ。
母:Yさんが亡くなった日に、10個ほどあった黄水仙の球根の
  1個だけが花を咲かせたんだよ。そのときに思い浮かんだ
  短歌を書いてあるんだ。
私:へえ、どんな内容なの?
母:待ってね。どっこいしょ。
  「如月(きさらぎ)の窓辺にすがしき黄水仙(きすいせん)
   一輪(いちりん)咲きぬ友逝(ゆ)きし朝」
私:ほう、なかなかいいね。
母:もし短歌の先生について勉強してれば、もっとちゃんとした
  短歌を作れたと思うんだけど。私は、思い浮かんだときに
  そのまま書き残してるだけだからね。
私:あのね、大学で文学教える先生や文章を描き馴れてる人たちは
  いい文章は書けると思うけど、人の心に伝わる文章の
  書き方なんて、教えてもらってできるもんじゃないよ。
  天性の感覚であり感性だよ。それと、地面に這いつくばるような
  苦難の道を歩いた経験がないと、人の心を動かす文書なんて
  そう簡単に書けるものじゃないと思うよ。
母:お前は、いい文章を書くね。
私:そう思う?オレ誰にも文章の書き方なんて習ってないよ。
母:お前に書きためた短歌を捨てずに、整理して取っておくように
  いわれたとき、作った歌があるんだよ。
私:へえ、どんな内容なの?
母:ちょっと待って、どっこいしょ。
  「物書きを生業(なりわい)となす吾子(あこ)なれば
   つたなきわれの歌残すとう」
私:生業ってね、そりゃそうなれば理想だけど、毎日毎日
  馬車馬みたいに働いてばかりで、著述業なんて
  ほど遠いんだよ、まだ。でもまあ、81歳までは
  まだあと20年近くあるから、ゆっくりノーベル文学賞は
  狙おうと思ってるけどね。
母:またお前はアホな冗談ばかりいって。中には冗談が
  通じない人だっているんだから、聞く人が聞いたら
  軽く見られるよ。
私:あいあい、勝手に見ればいいんだよ。
母:いや、だからつくづく短歌のいい先生に学んでれば
  もっとちゃんとしたのを作れたのにと思ってね、
  こういうのを書いてみたんだけど、最後の部分が
  どう表現していいか、思い浮かばなくて。
私:いってみな。
母:うん。
  「師につきて学びし歌にあらざれば
   書き残さるるは○○○○○○○」
  この○○○○○○○の部分が、「心に重し」だと
  ちょっと情感に欠けるなと思ってね。
私:なるほどね。(2秒考えて)じゃあさ、
  ○○○○○○○の部分は「面(おも)はゆくあり」
  なんていうの、どう?
母:ああ、「面(おも)はゆくあり」ね。悪くないね。
  (2秒間を置いて)うん、いいね。それに決めたわ。
私:そう。じゃあさ、この短歌は親子の合作ということに
  してもらうからね。
母:きゃはは。

とまあ、いつ逝くかもしれぬ老母と、その老母より先に逝くかもしれぬ、
親孝行か親不孝か判然としない息子との、珍しくも
文芸的なやりとりに終始した時間だった。
 
 
 

  • 「面はゆくあり」はジグゾーパズルのようにピタッとはまりましたね。さすがに親子だと思いました。89歳になっても歌を創るという感性と教養の持ち主はめったにいるものではないと思います。「友逝きし朝」に一輪の黄水仙の花が開くなんて、作者の深い思いと共に友への美しいも悲しい手向けとなりましたね。
    -- パシリーヌ 2014-01-25 (土) 06:20:16
  • パシリーヌさん
    母にこのまま、感想コメントを読んで聞かせたいと思います。高齢ですが、まともに会話できますので、その点はとても助かっています。これが、電話する度にオレオレ詐欺かと警戒されるようになったら大変ですから。 -- 昼寝ネコ 2014-01-25 (土) 14:06:15
  • 今日は立春ですが、今雪がちらついてきました。寒い1日となりましたが、母子の会話に心が温まり、癒されました。こういうのっていいですね。昼寝ネコさんもさすが書くのがお上手。私は俳句の先生に「眠っている感性を目覚めさせて」と言われ続けてますので、未熟なんです。お母様はすでに天性の感性がおありで、感性が光ってます。しっかりご自分の歌を詠めているのですから、先生に学ぶ必要はないですよ。先生につくと自分の思いを捨てなくてはならない時もあり、不自由です。お二人の短歌談義期待しています。 -- としえ 2014-02-04 (火) 15:00:16
  • としえさん
    コメントを有難うございます。母は「今年を越せるかな」と、毎年いっていますが、さすがに89歳で身体の機能が弱っているようです。でもまあ、十分に務めを果たしたので、いつ死んでもいいよといっていますが、同時に、今は忙しくて葬式を出すのも面倒だから、しばらくは生きてるように厳命してあります。 -- 昼寝ネコ 2014-02-04 (火) 15:08:46

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