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15080901 昼寝ネコ

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2015.08.09 創作短編・「なんだい、久しぶりにクレモンティーヌじゃないか」投稿者:昼寝ネコ

Clementine クレモンティーヌ - Lete レテ~夏 - アン・プリヴェ~東京の休暇 01

朝目が覚めて、起きてみたら体調がおかしい。今までも、何度か同じような症状を経験しているが、脳内に違和感が拡がっている。こんな感じのときは、血圧が200を超えていたのを思い出し、血圧計で測ってみた。137だったので、原因は血圧ではないようだ。とりあえず水分を補給し、トーストを1枚食べたが、不安が消えないため、今日の予定をキャンセルし休養をとって様子を見ることにした。

まるで追い打ちをかけるように、電話回線が全て不通で、インターネットもつながらなくなってしまった。前回は、鳥が光ケーブルをくちばしで突っつき、断線したのが原因だった。とりあえず、携帯で修理を依頼し横になった。

いつの間にか眠りに落ちたらしい。記憶の彼方から、香水の匂いが拡がってくる。誰が使っている香水だっただろうと、ぼんやりした頭で記憶を辿っていると、目が覚めた。

「おじさん、起こしちゃった?」
「げっ!なんだお前、クレモンティーヌじゃないか」
「なんだはないでしょ。いつもそうなんだから。たまには感激して出迎えてくれたっていいでしょ?」
「いや、いつだって歓迎してるさ。だけどいつも、まるでこそ泥みたいに、突然現れるだろ?びっくりするよ」
「あらいやだ、姪の私に向かってこそ泥はないでしょ?」
「そんなことより、夢の中にお前の香水の匂いが漂ってな、誰の香水だったかなと考えてるうちに、目が覚めたんだよ」
「おじさん、私の香水をちゃんと覚えていてくれたのね」
「ああ、音楽と香水は遠い思い出に深く染みこんでいるって、誰だったか忘れたけど、有名な詩人がいってたよ」
「それって、おじさん自身の言葉なんじゃないの?」
「いや、音楽はダリの言葉だよ。香水はたった今思いついた。この香水はなんていう名前なんだい?」
「これは知り合いの調香師が、私だけのために作ってくれたので、とくに名前はないの。好きな名前を付けていいよっていわれたので、私が勝手に命名したの」
「なんて?」
「海辺のシャミナード」
「・・・」
「可笑しい?・・・どうして黙っちゃうの?」
「いや、突然いろいろ思い出してしまってね」
「ママがよく弾いていたのを覚えてる?」
「ああ、もちろんだよ」

やれやれ、クレモンティーヌはいつも突然パリから飛んで来て、すっかり封印されたドゥーヴィルの過去をほじくり返す。おまけにいつだって、社会情勢が不穏になると、議長秘書だからとかなんとかいい、あれこれ注文をつける。こんな体調の悪いときに、ややこしい話は勘弁してほしい。

「もう浅草には行って来たのか?」
「いや、まだよ。おじさんへのメッセージを伝えたら、舟和と梅園に行ってみようと思ってるの」
「お前も不思議な好みだな」
「おじさんほどじゃないわよ」
「相変わらずはっきりいうんだなぁ」
「ママはそんなことなかったでしょ?」
「まあいいや。で、メッセージって?」
「うん。ではここからは昼寝ネコ世界大会議議長秘書として、申し上げます」
「ははぁ、しかと承ります」
「最近、顧問の長老ネコが託宣を受けたと報告がありました。最高齢で、3,826歳の最先任顧問です」
「それで?」
「以下に、その託宣の要約を読み上げ、最後に議長からの要請内容を伝えます。要約文は、日本の周辺国を中心とするものです」
「はぁ」
「では、代読いたします・・・。
【余が受けし託宣。
東の大陸と島々に住むネコたちのために。
その日、暴虐と圧政によって殺戮された者たちの亡霊が、手に手に剣と槍を持ち、城壁の中で圧制者を取り囲む。
田畑では、植えた苗が育たず、実を結ばないまま朽ち果てる。
胎児たちは月が満ちないまま命を終え、母親の悲痛な叫び声が響き渡る。
冨を誇る者の高価な衣服は、破れた荒布に変わる。
おごり高ぶる者たちの金と銀は、またたくまにうじの餌となる。 貧しい者を虐げ、旅人や寄留の者に親切を施さなかった者は全身を吹き出物に覆われ、自ら陶片で身体中を傷つける。
兵士を乗せた軍船は港を離れても、すぐに泥舟のごとく海の深みに沈む。
冨を懐に隠し持ち遠く逃れようとしても、野生の獅子が待ち受ける。
高慢な者の心には不安と怖れが満ち、片時も安眠することはできない。
国の栄華は打ち倒され、決して太陽の届かない闇の奥に堕ちる。
悪だくみ、奸智奸計によって国と民を滅ぼした統治者は、陽の下に曝され、忌み嫌われながら世界中の人々から踏みつけられる。
しかし、虐げられた貧しい人々は、飢饉にあっても食を得て
心に平安が宿る。】
・・・以上で終わります」

「はっ?なんなのこれは」
「大長老が受けた託宣です」
「はっ・・・?」
「では、議長からの要請文を読みます。いいですか?
世界昼寝ネコ大会議議長からの要請文。
日本で日々安穏に暮らしている、通称昼寝ネコ殿におかれては、
大長老が受けた託宣を熟読した上で、日本に暮らすネコたちの安寧と平和のために尽力すべし。以上」
「えっ?何が何だか訳が分かんないよ。具体的に何をするか、どこにも書いていないじゃないか?」
「あのね、おじさんだってもう3,016歳なんだから、大先輩の長老ネコが受けた託宣を読めば、何をすべきか想像できるはずでしょ?ちがう?」
「いや、それはお前たちの勝手な理屈だよ。年齢が何歳だったとしても、いきなりこんな文章を聞かされて、はい分かりました、じゃあこうします、なんていえる訳ないだろ?お前だって議長の秘書が長いんだから、おじさんの身になってもう少し具体的な情報を用意してくれなくっちゃ」
「あのねおじさん、もう行かないと舟和も梅園も閉店時間なの。
浅草は夜遅くまで営業してないの」
「はぁ?お前ね、おじさんと浅草に和菓子を買いに行くのとどっちが大事なんだよ」
「ごめんね、浅草の方が大事なの。おじさんだったらなんとかできるわよ。舟和の芋ようかん、買ってきてあげようか?梅園のデカどら焼きほしい?」
「いらないよ、そんなの(プイッ)」
「あら、今日のおじさん不機嫌なのね」
「当たり前だろ」
「機嫌が悪いときは、甘い物を食べるといいんだって」
「ふん」
「じゃあ行くわね。連絡待ってるからね」

そ んなこんなんで、こっちがこんなに不調なのに無理難題を残して、クレモンティーヌは浅草に向かってしまった。

でもまあ仕方がない。大先輩が受けたという託宣を読み返し、日本に住むネコたちのために何をしたらいいのか、考えてみようと思っている。

まあ、ネコを被った人間としてずっと生きているので、これも自分の宿命なのだろうと思う。

でも強がりをいわず、芋ようかんを頼めばよかったと悔やんでいる。

  • 昼寝ネコさま
    思わず可笑しくて笑ってしまいました。意識朦朧の中(?)クレモンティーヌの久しぶりの訪れを受けて託宣まで受けてしまう。イザヤ書もヨブ記も昼寝ネコさまによって統合されてしまう。うじの餌は金と銀ですか?金と銀は腐肉ってこと?「虐げられた貧しい人々は、飢餓にあっても食を得て心に平安が宿る」不思議な託宣ですね。実態社会は真逆になるということですね? -- パシリーヌ 2015-08-10 (月) 22:27:02
  • パシリーヌさん

    ご高評を有難うございました。今ちょうど、詩篇、箴言を読み終えてイザヤ書を読んでいます。するとどうも、最近の中国情勢と重なりまして、ちょっと作風を真似てみました。おっしゃるように、陶片で身体をひっかっくのはヨブのシーンです。中国国内の「農民戸籍」の人たちは、暴動を起こさなければいられないほど追い詰められていますが、共産党政府が崩壊し国家が解放される、というのが託宣の中心になります。主の恐るべき日が、もうじき迫ってきていないと、辛酸を舐めている虐げられた人たちが報われません。確かどこかに下克上のような表現もあったと思うのですが、とにかく大混乱になると予測しています。 -- 昼寝ネコ 2015-08-10 (月) 23:39:53
  • 昼寝ネコさま
    解説つきだとよく分かります。恐ろしい託宣ですね。私はどこの政府であれ崩壊することを望みません。崩壊=解放とはならず、統治者なき民衆は更なる苦難を強いられるのではないですか?難民が平和な国日本を目指して逃れてくることでしょう。日本には受け入れる力や土壌があっても、ボートピープルを受け入れているEUのようになってしまいます。
    でも昼寝ネコさまの託宣では貧しい者や寄留者に親切にしなさい、と。 -- パシリーヌ 2015-08-11 (火) 09:42:01
  • パシリーヌさん

    10数億人という国民を抱えた状態で統治が破綻すると、想像がつきません。何が起きるか想像すらできません。でも、うまくしたもので、そのときには統率力のある人物が出現するのだと思います。投獄されていた政治犯や、弾圧されていた活動家の出番が来るのではないでしょうか。ネコにも出番があるかもしれません。 -- 昼寝ネコ 2015-08-11 (火) 14:50:09

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