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2019.02.02 詩・散文「死者は」 投稿者:徳沢 愛子

母は瞑目する前日
〈玉葱の苗を買うてきてたい〉と言った
玉葱を育て 収穫して
また 娘よ お前に立派なやつを
やろうと言うのである
人は自分では死なないのである

先輩の中村慎吉さんだって
死の数日前 見舞った私に
〈じゃあ また〉と言って
左手を上げた
またお前さんに文学の厳しさを
話そうと言うのである
みんな死んだことがないので
死なないのである

その証拠に死者の墓前に立つと
その続きが聞こえてくる
お墓の中にはいなくて
風の中にいて風語を話したり
花の中にいて花語を囁やいたり
虫の声に乗って虫語で叫んでみたり
忙しく伝言しているのである
すっかり人が変って
生前よりも饒舌になって
死者には昼も夜もないのである
時に明日の饒舌のために
暗闇で黙って考え事もしているにちがいない
気分屋で予期せぬ時に話したり
笑ったり 叱ったり
生前より驚かすことがうまくなって
それに気づく生者を
アッと言わせるのである
もしかしたら 死者は
生きていた時より 鮮やかで
面白いのかもしれない
もう 白い服を脱いで
自分色の服を着て
生者を人間ウォッチングして
好き放題 料理しているのかもしれない
何もかもわかり
何もかもお見通し
ヤキモキして 死者たちは
きっとどの人もみんないい人
だけど こちらでは
お棺の中の静かな顔を思い出しては
寂しがっているのである
青い紐のような溜息など一つして

  • 確かに自分は死んだことがないので死なないのですね。現世よりも人が面白くなるのであれば悪くないですね。 -- 岸野みさを 2019-02-03 (日) 20:42:41

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