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131001-2昼寝ネコ

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2013.10.01 創作短編「続・ボクのご主人様はプロフェッサー」 投稿者:昼寝ネコ
 
 この作品は、現在、論文と格闘している最中のメタセコイアさんに謹呈させていただきます。数日前のメールで、2008年の6月に書いた短編「ボクのご主人様はプロフェッサー」が面白かったので続編を読みたいとのリクエストをいただきました。思いつきの展開を、数行でお送りしたのですが、なんとなく、この気難しいプロフェッサーご主人様の行く末が気になり、ちゃんとストーリーにしなくっちゃ、と考えた次第です。作った私自身が、もうすっかり忘れていた内容ですので、まず、3年前の正編をお読みになりそれから、この続編をお読みいただいた方がより味わい深い・・・というか、このプロフェッサーに対する憐憫の情が湧くのではないかと思っています。

 メタセコイアさんによれば、拙著「昼寝ネコの雑記帳」を発刊後間もなく、大学の生協で目に留め、買ってくださったそうです。それ以来、ずっとこのブログを訪問してくださっている非常に奇特な方なんです。大事な「読者」さんなんです。メタセコイアさんが独身か既婚か知りませんがもし独身ならば、このプロフェッサーの轍を踏まず、これと思った女性には、思い切って想いを伝えてくださいね。

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   (画 カトリ〜ヌ・笠井)
 
 

続・ボクのご主人様はプロフェッサー
 
 
昼寝ネコ
 
 

 早いもので、あれから3年の歳月が流れてしまいました。

 また一人きりの世界に戻ってしまい、それでなくても無口だったのに、ご主人様は私に対しても、あまり話しかけなくなってしまったんです。

 あの女学生が卒業した年の秋に、「シンデレラ・プリンセス」が話題になりました。和風に訳すと、「玉の輿」ですね。品のない表現だけど。
 マスコミが取り上げたのは、社長秘書として採用された新卒の女子大生が、すっかり社長に気に入られ跡取り息子と結婚したという話題なのです。なにせ、IT企業の草分けで、あっという間に上場し株の時価評価額が、電鉄会社を上回るとか・・・。
 難しい話はともかく、まさにプリンセスの輝きでした。普段、週刊誌はおろかテレビも観ないご主人様でしたが大学の学内新聞で、それがあの女子大生だと知りました。

 表情がますます暗くなったのは、いうまでもありません。でもまあ、なんとか授業はこなしていました。

 クリスマスが終わり、お正月を迎えましたがご主人様にとっては、世の中のスケジュールはまったく視野に入っていませんでした。クリスマスからお正月の三が日まで、毎日、ケンタッキー・フライドチキン、という・・・食欲も味覚もどこかにいってしまい、要するに無感覚人間になったのでしょうね。

 梅の花が咲いた頃、ご主人様はやっと言葉を口にしました。「もう桜が咲いたのか」ですって。やれやれです。でもまあ、「バラが咲いたのか」といわなかっただけ、まだましですけどね。

 ご主人様にしてはめずらしく、「海が見たい」と。私も一緒に連れて行ってくれました。ああ見えても、割と運転は上手なんですよ。
 都心を抜けて第三京浜に入り、横横道路を走りました。逗子の高台に、大きな邸宅が数十軒も並んでいる一角があります。入り口には警備室があって、無断立ち入り禁止なんですけど、平然とした顔で通り過ぎるのがコツのようで無事に敷地に車を乗り入れました。
 まるで「逗子のベル・エア」とでも表現したいぐらいの開放感溢れる、セレブな住宅街なんです。ご主人様は、ここを散策するのがとても気に入ってるんです。

 人とすれ違うことは、まずありません。ですから、怪しまれる心配もない。と思っていたら、うわっ、まずいや。数軒先の邸宅から、数人の人が出てきました。ここでUターンしたら不自然だしね。顔を背けてやり過ごそうとしたんです。
 「先生?」
 一人の女性が声をかけました。ご主人様は、一瞬、戸惑いましたが、その声の主が、あの女子学生だと分かるとさらに困惑してしまいました。言葉が出ないんです。

 こんな偶然ってあるものなんですね。

 その日以来、彼女はご主人様に電話をかけてくるようになったんです。どんな経緯でかって?そういうことは細かく追求しないでほしいんです。

 さて、その後のことを簡単に説明しましょう。

 そのとき、彼女は離婚を決意しており数ヶ月後には正式に離婚したんです。しばらくはマスコミの目も避けて静かに過ごしたいと、北海道に行き洞爺湖を見下ろすホテルに滞在しました。ご主人様と彼女は、かなり頻繁に電話やメールで連絡を取り合うようになりました。

 一体どんな会話だったかって?ご主人様がアイーダがどうとか、トスカがどうとか、あるいはスタンダールがどうとか、そんな気の利いたことをいえればいいのですが、大まじめに「活断層がどうのこうので日本の全国的な地震発生のメカニズムはどうの・・・」まあ、ざっとこんな調子で、彼女にはかつての講義の延長みたいだという印象だったのではないでしょうか。

 でもね、二人は急速に親しくなり、お互いに必要とするようになったんですよ。もし彼女に離婚経験がなければ、おそらく、ご主人様を恋愛の対象とは考えなかったと思います。人生って、本当に分からないものですね。

 さて、もうそろそろ出かける時間になりました。これから私は、ご主人様と一緒に横浜・山手の外人墓地に行くんです。

 ご主人様としては、プロポーズは人生で初めての経験でした。30歳以上の年齢差でしたが、彼女もご主人様の良さを理解し、北欧のどこかで、二人だけで結婚式を、という話題になりました。あんなに饒舌なご主人様を見たことはありません。私に難しい本を読むよう強いることもなくなりました。

 でも、人生って、本当に不可思議なメカニズムだと思います。ある日、体調を崩した彼女は、念のためにという軽い気持ちで病院で検査を受けたのですが、なんと、血液の厄介な病気であることが分かりました。あっけなく、本当にあっという間に還らぬ人となってしまったのです。あの頃のことは、あまり克明に説明したくはありません。

 ご主人様は、元の寡黙な生活に戻りました。でも、無言のまま、何かを必死に支えようと苦しんでいるのが、手に取るように分かりました。

 赤いバラの花束を抱え、墓石を探しました。なぜ外人墓地なんだろう?私にはその理由が分かりませんでした。

 ご主人様は、そっと花束を置くと頭を下げて、小さな声でいいました。
 「有難う・・・」
 それ以上は言葉にならず、両肩がかすかに震えていました。

 ご主人様に静かな日常生活が戻りました。ただひとつ、違ったことがあります。以前のように、オペラは聴かなくなりました。今では、もっぱらダイアナ・クロールを聴いています。おそらく、ご主人様の内面に、なんらかの変化があったのだろうと想像しています。

 ようやく私にも話しかけてくるようになりました。相変わらず、私が人間の言葉を理解することが分からずに思ったままを伝えてくるのです。

 そうなんですよ。ただじっと、だまって聴いてあげることこそがカウンセラーの一番大切な役割なんですよ。(2011.11.29作品)
 
 
 お読みくださり、有難うございました。では完結編にお進みください。

  • 今生の別れの言葉はやはり「ありがとう。」ですか? -- パシリーヌ 2013-10-02 (水) 05:52:00
  • パシリーヌさん

    そうですね。自分が逝くときも、周りの人たちに
    ありがとうと言えるような心境を望んでいます。 -- 昼寝ネコ 2013-10-02 (水) 12:51:37

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